◆身長推定
骨格から生前の身長推定をする方法は、国内外で、身長がわかっている解剖用ご遺体の四肢骨(上腕骨・橈骨・尺骨・大腿骨・脛骨・腓骨)の最大長・全長・生理長等を計測して、回帰直線方程式により推定式が作成されています。
これまで、イギリスの統計学者、カール・ピアソン(Karl PEARSON)[1857-1936]によるピアソンの身長推定式や、アメリカの法医人類学者、ミルドレッド・トロッター(Mildred TROTTER)[1899-1991]と統計学者、ゴールディン・グレザー(Goldine GLESER)[1915-2004]による、トロッター=グレザーの身長推定式が有名でした。日本でも、このどちらかあるいは別の方法を使用して、生前の身長を推定していました。
しかし、1960年に、順天堂大学の藤井 明が、日本人を使用した身長推定式を開発し、現在では、広くこの藤井の方法が使用されています。 ちなみに、藤井が使用した標本は男性165体(平均身長156.5cm)・女性27体(平均身長146.6cm)で、今の現代人に比べるとかなり低い身長です。また、女性の場合標本数が少ないため、信頼性に問題があるとも言われています。
●藤井(1960)による身長推定式
男性[♂]用推定式
・上腕骨最大長
左: Y = 2.83X + 729.08
右: Y = 2.79X + 732.42
・橈骨最大長
左: Y = 3.30X + 834.01
右: Y = 3.23X + 842.96
・尺骨最大長
左: Y = 3.25X + 792.01
右: Y = 3.09X + 825.87
・大腿骨最大長
左: Y = 2.50X + 535.60
右: Y = 2.47X + 549.01
・脛骨最大長
左: Y = 2.36X + 775.42
右: Y = 2.47X + 739.99
・腓骨最大長
左: Y = 2.55X + 729.70
右: Y = 2.60X + 709.25
女性[♀]用身長推定式
・上腕骨最大長
左: Y = 2.49X + 787.42
右: Y = 2.38X + 813.02
・橈骨最大長
左: Y = 3.21X + 819.31
右: Y = 3.13X + 829.34
・尺骨最大長
左: Y = 2.75X + 864.70
右: Y = 2.91X + 826.57
・大腿骨最大長
左: Y = 2.33X + 578.41
右: Y = 2.24X + 610.43
・脛骨最大長
左: Y = 2.34X + 737.54
右: Y = 2.20X + 778.71
・腓骨最大長
左: Y = 2.24X + 779.49
右: Y = 2.63X + 660.59
●藤井(1960)
藤井 明
1960年
「四肢長骨の長さと身長との関係に就いて」
『順天堂大学体育学部紀要』
第3号
pp.49-61
●平本(1972)
平本嘉助
1972年
『人類学雑誌』
第80巻
第3号
pp.221-236
*「J-Stage」の、フリー・アクセスにリンクさせています。
●平本(1977)
平本嘉助
1977年
「日本人身長の時代的変化」
『自然科学と博物館』
第44巻
第4号
pp.169-172
●Hiramoto(1978)
Yoshisuke HIRAMOTO
1978年
「Osteometric Studies of the Femur of the Japanese of Middle to Late Edo Period from Fukagawa, Tokyo」
『Bulletin of the National Science Museum, Tokyo』
Series D
5
pp.31-42
[平本嘉助:江戸時代中・後期人大腿骨の計測学的研究]
*「CiNii」のフリーアクセスに、リンクさせています。
●平本(1981)
平本嘉助
1981年
「骨からみた日本人身長の移り変わり」
『月刊・考古学ジャーナル』
第197号
pp.24-28
●平本(1983)
平本嘉助
1983年
「考古学と周辺科学4.形質人類学」
『季刊・考古学』
第4号
pp.87-91
●Kouchi(1987)
Makiko KOUCHI
1987年
「Which Equations Should be Used to Estimate the Stature of Ancient Japanese Populations?」
『Bulletin of National Science Museum, Tokyo』
SeriesD
13
pp.21-46
[河内まき子:日本の古人骨集団にはどの身長推定式を使うべきか]
*「CiNii」の、フリーアクセスにリンクさせています。
●平本(2004)
平本嘉助
2004年
「江戸時代人の身長と棺の大きさ」
『墓と埋葬と江戸時代』
江戸遺跡研究会編
吉川弘文館
pp.201-223